去る3月9日、東京・文化放送メディアプラスホールで声優オーディション「第13回声優アワード新人発掘オーディション」の最終審査が開催、38人が参加した。声優事務所のスカウトから特に手の挙がった3名に話を聞いた。
審査では2人一組での掛け合いセリフのテキストリーディングも
新たなる才能あふれる声優の卵を発掘する『声優アワード新人発掘オーディション』が今年で13回目を迎えた。その年度に活躍&印象に残る声優や作品を対象に業績をたたえる『声優アワード』と同日同会場で行われる『新人発掘オーディション』は、名だたる声優プロダクションによる公開オーディション&スカウトの現場となっており、声優を目指す者たちにとっては、大きなチャンスと巡り合えるオーディションとされている。
約1000人の応募者たちから、書類選考を通過した40人が、3月9日、文化放送メディアプラスホールにて行われた最終選考に参加(2名欠席)。オーディション前半では、自己PRと課題である約2分のテキストリーディングを。後半では、2人一組での掛け合いセリフのテキストリーディングと質疑応答を実施。
準備万端で狙って来た参加者や緊張で思うようにアピールできなかった者もいるなか、25人の出場者に札が上がった。なかでも、印象的で、札が集中した3人の参加者にスカウト直後にインタビュー!
大野海夏太さん「アメコミのヒーローを演じて、名前を覚えてもらいたいです!」
自己PRでは、相棒・キンタくん(鳥のぬいぐるみ)との掛け合いを
<秋田県出身 大野海夏太さん・20歳>
子どもの頃に父親と観た、ジム・キャリー主演の映画『マスク』で、声優の山寺宏一さんに衝撃を受けて声優を目指した大野さん。相棒でもありラッキーアイテムとなった鳥のぬいぐるみ(キンタくん)を持参して、本オーディションで全力を出し切った。
「怖くて眠れなくて、前の日も一睡もせずに挑みました。"ちゃんとできている自分"をイメージして、失敗を恐れずに、今できる最高のパフォーマンスをしました。正直、1枚でも札が上がれば勝ちだと思っていたので、5枚も上がるなんて……大勝です! 自己PRで2人芝居をした相方の鳥のぬいぐるみは私物です。去年UFOキャッチャーで取って"キンタ"と名付けました。オーディション対策を相談していた先生に『何かおもしろいことできないの?』と言われて、最初は腹話術でもやろうかなと思っていたんですが、普通に喋ったほうが面白いかなとか、キンタはハードボイルドな声の方が面白くない?と改良に改良を重ねて、今日が最終版です(笑)」
ハードボイルドな声は、洋画やドラマが好きだった影響もあり、狙って演じていたという大野さん。
「そもそも、声優の仕事に興味を持った最初のきっかけはお父さんと見た映画の『マスク』だったんです。ジム・キャリーの声を担当された山寺さんの声を聞いて、"とんでもない仕事だ!"と。吹き替えに興味を持って、どんどん洋画作品を観ていくうちに、自分もやりたいなと思い始めました。趣味でいろんなキャラを作って演じてました。地元の秋田に、専門学校の方が来てくれて、役者を目指すならうちの学校がいいよと勧めてくれたので進学しました。そこで大きな刺激を受けました。今までは、楽しくて、遊びの延長線上みたいなものでしたが、ガチで楽しくなって、本気で仕事にしたいと思いました。親しみやすい声優になりたいのはもちろんですが、洋ドラ・洋画に常に出ていたいです。"このハリウッド俳優にはこの人"みたいな声優さんになりたいです。強面の渋めの俳優さんがやりたいです!」
そんな大野さんの声優になったら叶えたい夢とは。
「小さい頃から『ドラゴンボール』が好きで、家にビデオがあったので、暇さえあれば2周ぐらいリピートして観ていて、かめはめ波の練習というか気の鍛錬をしていましたね。結果、できるようになったのは、ちょっとだけ体温を上げるだけっていう(笑)。今も、主人公がとてつもなく強いか、とてつもなく弱い作品に惹かれるので、ヒーローが好きなんでしょうね。目標はアメコミのヒーローを演じて、名前を覚えてもらいたいです! そして、この仕事を嫌いになって辞めてしまうことなく、ずっと好きで続けていきたいです」
髙橋尚子さん「いつか少年マンガで主役を張れるようになりたい! 2.5次元の舞台にも挑戦してみたいです」
髙橋さんは人生初めてのオーディションだった
<愛媛県出身 髙橋尚子さん・18歳>
今回の『声優発掘オーディション』の中で、最多である8社からのスカウトの札を受けた髙橋尚子(たかはし・なおこ)さん。愛媛の高校を卒業したばかりの18歳の彼女は、「大学に行く時間がもったいなかった」と、このオーディションに賭けていたが、1日にしてシンデレラガールとなった。
「声や演技に関しての勉強をする学校ではなかったのですが、親が戦隊ショーなどを扱うイベント会社を営んでいたので、1度だけナレーションのお手伝いをしたことがありました。当時は親に"お前じゃムリだ!"と言われてましたが(笑)。高校を卒業したら、すぐに声優のレッスンを受けたかったんです。大学に行く時間がもったいないと思っていました。もし、このオーディションで落ちても、バイトをしながらレッスンを受けて、チャンスを探そうと思っていました。だから、高校を卒業し、上京して引っ越してきたばかりでこんなにすぐに決まったのはびっくりです! こんなに札がいっぱい上がるとは思っていなくて、上がらないことの心配ばかりしていたぐらいなので信じられなかったです。上がった瞬間も、眩しくてちゃんと見えてなかったのですが、好きなことを応援してくれた親に感謝しています」
声の仕事の第一歩を踏み出した高橋さんは、そもそも声優の世界に興味を持ったのはいつ頃からだったのか。
「中学2年生の頃、姉きっかけで"テニミュ(ミュージカル『テニスの王子様』)"にハマったのがきっかけでした。調べていくうちに、アニメはもちろん、キャラソンのライブにたどり着いて。ライブでは、音楽もない暗転の状況で、声優さんが声を出した瞬間に会場が"ギャーーー!"って沸くのを見て、声だけでこんなに人を惹きつけるなんて凄い!って感動しました。そして、自分も"見る側"ではなく、楽しませる側になりたいと、声優という仕事に興味を持ったんです」
高橋さんにとっては、夢見ていた世界への初オーディションとなる『声優発掘オーディション』への応募の経緯は。
「オーディションの情報をネットで調べて、このサイトを見つけて挑みました。履歴書の書き方も知らなかったので、それも調べました。本選に参加する受験者のみなさんは、きっと個性豊かなんだろうなと思っていたんですが、私にはそういう主張できる個性がなくって(笑)。唯一誇れるのは、小学校1年生から中学生までバスケをしていたので、ハンドボールで高校推薦を受けたことぐらいですから、それを自己PRとしてスピーチしました」
見事に最多獲得者となった髙橋さんに声優としての夢を語ってもらった。
「好きだった『テニスの王子様』のような男性キャラの集まりのような作品で、女性が声優さんをしているというのに憧れます。私もいつか少年マンガで主役を張れるようになりたいです! そして、2.5次元の舞台にも挑戦してみたいです。好きだけど苦手な歌も頑張っちゃいます(笑)! 自分が色々な仕事に挑戦していくことで、声優という職の可能性を広げていければと思っています」
成橋円さん「俗にいうB級映画が好きで。声優になったら、変な怪物に食べられたいです(笑)。"成橋、また食べられてるよ"と言われたい(笑)」
スーツでの参加は「あえてありきたりなスーツのほうが目立つかと」のこと
<東京都出身 成橋円さん・20歳>
本選の審査中、男性同士のペアを組んだにも関わらず、「女性×女性」の台本を選び、見事、思惑通りに審査員たちに印象づけ、6社からのオファーを受けた成橋円(なるはし・えん)さん。専門学校を卒業したばかりの20歳の成橋さんには一貫して"人の印象に残りたい"という野望がうかがえた。
「自分の通っていた専門学校でこのオーディションを知りました。去年、参加した先輩たちの話も聞いていたので、厳しい世界なんだなと分かってはいましたが、とにかく1社でも札があがればと思っていました。審査中は、用意していた自己PRが頭から飛んじゃって(笑)。何を伝えれば、みなさんに覚えてもらえるかなと、とっさに思い付いたのが、自分の名前の珍しさです。Google検索したらトップに出てくることを話しました。また、子どもの頃、南の島で変わった経験をしたことがあり、その話も。時間を気にしすぎたせいで、あまり喋れなかったんですが、審査員のみなさんに何とかいいところを見つけてもらえてよかったです!」
声優を目指したきっかけは中学2年生の頃だという。
「友だちと格闘ゲームをしていた時に、キャラクターたちの"ハッ!"とか"ウッ!"という声って、人がやっているということに気づいてからです。その頃から、あまり学校にも行かなくなったんですが、周りが高校進学を決めていくなかで、自分がこの先やりたいことを考えたところ声優の仕事だと。中学卒業の直前に、二次応募で、声優の仕事に繋がるようにと、まずは演劇部のある高校に進学を決めました。演劇部には熱量のある子たちもいて、自分も部員を集めたり、演技も楽しんでいたんですが、声優の専門学校のオープンキャンパスに行って、体験授業を受けたときに、さらに声優を目指す人たちの熱量に衝撃を受けました。高校卒業後は、その専門学校に通い、偉大な卒業生たちの写真が飾られているのを見ながら、『自分の写真もここに』って大口を叩いていたんですが(笑)。実現したので、口に出してよかったなと思いました」
大きな夢と熱量を持って挑んだ成橋さん。前半の自己PRでは多少、予定と違う失敗はあったものの、後半のシナリオリーディングでは、強烈なインパクトを残した。
「参加者と2人組を組んでのセリフテストでは、たまたま唯一の男性同士のペアになりました。いただいていた練習時間の10分で、ペアの男性と一緒に読んで楽しかったのが『女性×女性』のセリフで(笑)。"あの2人、男同士なのに、わざわざ『女性×女性』のセリフを選んだぞ"と印象に残ってもらえるのかなと(笑)。順番もいちばん最後だったせいか、せっかくなのでと『男性×男性』も聞かせてみてとリクエストもいただいてラッキーでした(笑)。もともと、少しでも自分を覚えてもらおう、印象に残してもらおうという思いがあって、みんなオシャレしてくるだろうし、今日はあえてありきたりなスーツのほうが目立つかと思って着て来ましたし。まあ、本当は、私服がダサいし新しい服を買えてなかっただけなんですが(笑)」
審査員たちの印象に残ることに成功した成橋さんには、まだまだ"印象に残りたい"という願望があった。
「俗にいうB級映画が好きで。パニックホラーとかに出てくる主人公の横にいる陽気なヤツで、中盤ぐらいまでには食べられる人の方が印象が強いんですよ。なので、声優になったら、まずは変な怪物に食べられたいです(笑)。その手のキャラの声やっている作品が大量発生してほしい。"成橋、また食べられてるよ"と言われたいです(笑)」
取材・文/柳真樹子 撮影/清談社 構成/Audition & Debut編集部